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消費者がデータ共有を不安に感じない金融サービスは設計可能?| プライバシーゴーグル
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消費者がデータ共有を不安に感じない金融サービスは設計可能?| プライバシーゴーグル

CEO: ポール チャップマン
2023
01
30

こんにちは、金融データプラットフォーム「Moneytree LINK」を提供するマネーツリーの代表取締役のポール チャップマンです。

皆さんは10代の頃に、友人や家族と投資や株の売買について話したり、実際に資産運用を行ったことがありますか?私はあります。

私の母国オーストラリアの金融教育について、マネーツリーの社内や、2022年に登壇させていただいた「Global Money Week」でお話したことがありますが、日本と海外の金融教育や投資に対する印象の違いを感じました。

日本の資産形成・資産運用マーケットでDXを推進する様々なサービス事業者様と協業していても、この印象の違いと気づきは消費者のサービス利用を促すうえで重要なファクターになると考えています。

今回は1月28日のデータプライバシーデーにちなんで、デジタルサービス設計の視点からデータプライバシーを考えてみました。

海外の資産形成に関する意識とフィンテックの浸透

私自身は、母親からとにかく「お金を借りるな」と教えられていて、子供の頃はあまり投資意識が高い方ではありませんでしたが、13歳のときに親戚から投資信託をもらってはじめて投資を行いました。周りには10代の頃から株に詳しい友達がいて、「どの株を買うのがいい」など話は聞いていましたし、その頃オーストラリアで話題になっていた通信会社の民営化について話をしたり、若い頃から資産形成に関わる話題が一般的でした。

日本で育った多くの方は、10代の頃の資産形成方法といえば「貯金」がメインだったのではないでしょうか?もしくは親が管理し、ある年齢になると贈り物として通帳を渡される、など。いずれにしても、資産形成について考えるのは大人になってから、という雰囲気が少なからずあったかもしれません。

また、日本に比べ海外の方がお金に関するデジタルソリューションが豊富で、フィンテック企業も日本より早く出現していました。お金に関するデジタルアプリは、消費者にとって身近な存在だと言えるでしょう。

2022年にアメリカ発のフィンテック企業、Plaidが公開したフィンテック調査レポートによると、

出典

私の周りにいたオーストラリア人だけでなく、イギリスやアメリカに住んでいる人たちも投資に積極的、さらにフィンテックの活用にも積極的だという印象です。

日本も投資の意識や金融サービスのデジタル化は進み始めている

海外に比べ、日本のお金に関する意識はどうでしょうか。

金融広報中央委員会が18歳から79歳の個人を対象として、2016年から3年おきに実施している「金融リテラシー調査」では、「金融教育を学校等で受けた人の割合」が、7%の日本に対して、米国は20%と差が開いています。(金融広報中央委員会 知るぽると「金融リテラシー調査2022年の結果」(出典

恐らく日本では、学校等の金融教育の機会がこれまでなかったため、社会保障や税金の仕組み、資産運用方法や投資に関する基礎知識などは、家庭内の金融リテラシーがそのまま子供に引き継がれてきたというのが一般的ではないでしょうか。

また、金融トラブルのニュースが印象に残り、投資に消極的で慎重な人も多いかもしれません。

日本では、2001年4月に「金融商品販売法」が施行され、激変する金融市場においても法改正が重ねられてきました。(出典)消費者・投資者保護のルールが定められ、「貯蓄から投資へ」の基盤が整備されてきたように感じます。

2022年4月から、高等学校の学習指導要領改定で「金融教育」の拡充が決まり、いわゆる金融教育の義務化が日本でも始まりました。全7章で構成されている「高校生のための金融リテラシー講座」にも資産運用について書かれており、これまでよりも基礎知識をもったうえで投資を行う若年層が増えてくると期待されます。(出典

また、野村総合研究所の「生活者1万人アンケート」(2021年版)の調査結果では、投資経験者の割合は平均で2割程度にとどまっていますが、2018年は前回比1.6%増加し、2021年は3.6%増と変化幅も一段と大きくなっており、投資意識は高まりを見せています。(出典

資産管理アプリ「Moneytree」の利用者を対象に実施したマネーツリーの2022年の調査では、投資経験がある人は全体の約7割と平均よりも高い結果で、お金の管理に関心が高いことが伺えました。

しかし、「金融サービス提案を受けるために自身の資産データを共有したいか」という質問に対しては、約7割が「したくない」と回答。

自身の資産データを共有したくない回答者のうち、「営業や勧誘を受けたくない」の41%に次いで、「プライバシーやセキュリティが不安だから共有しない」が31%にのぼることが明らかになりました。

日本の方は慎重な方も多いので、適切な時期に適切な提案を行うことと、個人のデータを適切に取り扱うことを求めているでしょう。

(「約1.4万人調査から見えてきた求められる金融サービスレポート2022年版レポート」では20の自社調査と解説をまとめました。より詳細なレポートにご興味がある方はこちらから無料でお申し込みください。)

海外に比べて積極的とまではいえないものの、コロナ禍ではデジタルへのシフトが顕著に見え始めています。

経済産業省によると、2021年のキャッシュレス決済比率はコロナ禍前の2019年の26.8%から上昇し、32.5%となりました。(出典

デジタル化したサービスの増加や普及率の上昇と共に、投資への関心も高まっています。ストリートアカデミー株式会社が実施した「2023年習い事で挑戦したいランキング」の男性のみのランキングには、「ピアノギターなどの楽器」と同じく5位に、「マネー節約/資産/投資」がランクインしています。不動産・住宅サイト『SUUMO(スーモ)』が実施した2015年のアンケート結果とは内容も大きく変わり、日本人の関心が変わったという印象を受けました。(出典

出典)

マネーツリーとしても利用者のデジタルシフトを感じています。資産管理アプリ「Moneytree」 をリリースした2013年は、アプリをダウンロードした利用者の内、約3割程度の方しか金融機関を連携していませんでしたが、現在は金融機関を連携してる方は利用者の69%にも上りました。

決済手段のキャッシュレスの比率が増えたことや、インターネットバンキングを利用する方が増えたことでデジタルサービスが浸透したことが大きな要因ではないでしょうか。

とはいえ、海外と日本ではデジタルサービスの活用や資産形成への姿勢にギャップを感じます。

次のセクションでは、慎重な方が多い日本の消費者が資産データの連携を怖がらない、使いたいと思うデジタル金融サービスについて引き続き議論しています。

資産データを連携して利用したい、金融サービス設計の鍵とは?

既存の金融サービスでカバーできない部分を補うサービスなど、個人情報の共有に相当するメリットを提供することと、自身のデータを安心して共有できる安全な環境が整っていれば、資産データの連携に同意する金融サービス利用者が増えるのではないでしょうか。

まず最初に、「既存の金融サービスでカバーできない部分を補うサービス」について具体的に話します。

既存の金融サービスでカバーできない部分を補うサービス

明細データの遡及など機能的な補完

例として、インターネットバンキングやアプリなどを利用していると、取引明細データを遡ることができるのは、3ヶ月程度が限度のカード会社や銀行が多いと思います。

しかし、取引明細の履歴は融資を受ける際の審査や、一年間の収支実績をもとに将来の資産形成をプランニングするときなど、過去に遡って取引明細を確認することが必要になる時もあるでしょう。

資産管理アプリ「Moneytree」のように、資産データを自動的、かつ長期的に保存できるサービスを利用することで、既存の金融機関のサービスでは補えない「一定期間以上の取引明細を遡って閲覧」できるようになるので、利用者の視点で考えれば資産データを連携するメリットがあると思います。

また、自身の資産状況が分からない、支出の傾向や毎月のベースとなる生活費が分からないという人は、このような資産管理サービスを利用して毎月の収支を記録し、振り返りを行い自分の生活のベースラインを把握することにメリットがあるでしょう。

顧客の体験の補完

例えば洋服店へ行って、ウィンドウショッピングをしていたら購入する服に迷い、相談したとしましょう。「この洋服の色違いはありますか?」とお店の方に訪ねたら、「まずは、お名前とお電話番号を教えてください。」と聞かれることはないですよね。

金融商品でも、洋服を買うぐらい気軽に相談したりアドバイスを受けられるイージーさがあるといいと思います。買うか買わないか分からない初期段階では、まずは話を聞いたり相談したい人は数多くいるのではないでしょうか。

金融サービスを利用する際に、最初に利用者のデータ共有を求めるのではなく、サービスを利用してからデータ共有に同意できるオンボーディングフローを設計していく取り組みがあれば、もっと金融サービスに資産データを連携し活用する利用者が集まるはずだと思います。

サービス設計では、データの共有や連携は利用者にコントロールを与えることが一番重要だと思います。ここに早く気づいた企業が、勝者になっていくと思います。

資産データを安心して共有できる安全な環境

既存の金融サービスでカバーできない部分を補うサービスを提供できても、安全な環境でデータ収集、処理や保管がされていないと金融サービスに資産データを連携する利用者は増えません。

マネーツリーでは、利用者のプライバシーを守る観点からデータの利用用途に応じてデータ処理方法を使い分けています。

例として、統計データを提供する場合に留意している点は、データの母集団となるサンプルサイズを小さくしすぎないことです。

サンプルサイズが小さすぎると、統計とは言え個人が特定されるリスクがあるため、小さなサンプルサイズは提供の対象外にすることでデータプライバシーを守っています。

これは内閣府との「令和3年度『リアルタイムデータを活用した経済動向分析(家計簿アプリデータ活用)』」事業で活用したデータ処理方法です。(詳細はこちらのプレスリリースをご覧ください)

また、アルゴリズムでノイズをかけ、派生データから個人情報を逆算的に復元できないデータ処理方法を活用する場合もあります。

日頃から最も高い質でデータプライバシーを保護するために、マネーツリーのデータリサーチ部門は、データ処理の種類を増やし利用用途に応じて対応しています。(マネーツリーのデータリサーチ部門についてはこちらのプレスリリースをご覧ください)

資産データを連携するのは、バイアスのない自分の位置を知るため

どんな人でも自分自身に対するバイアスを持ってます。例えば鏡の前に立った時、自分が想像する自分と実際の自分の姿には、大きな差があることもあります。

データは事実です。データを見なければ、 楽観的な考えの人が多かったり、逆に悲観的な考えの人もいるかもしれません。例えばクレジットカードの利用額も、明細を見る前の予想と見た後の事実にギャップを感じることもありますよね。

実際のデータを振り返るまでは、 自分がどのような行動をしてるか、どのような考えを持ってるかはわからないままです。

金融面で、バイアスのない本当の自分を知るためには、資産データを連携して日頃から自分の事実と向き合うこと大切だと思います。

その機会を提供するためにはデータを安全に取り扱う環境を整え、データ共有のコントロールは利用者に託しているデジタルサービスの開発・設計が重要だと思います。

これからもマネーツリーはプライバシーリテラシー向上の一助となるべく、Privacy by Designに基づいた金融データプラットフォーム「Moneytree LINK」や資産管理サービス「Moneytree 」の提供のほか、定期的にこの「プライバシーゴーグル」ブログシリーズでプライバシーについて発信していきます。

ゴーグルを身につけるように、プライバシー重視の視点から日本市場に役立つプライバシーに関する情報を公開していく予定ですので、興味のある方はニュースレターにぜひご登録ください。今後の情報をどうぞお見逃しなく!

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プライバシーゴーゴルを読む

第一回:ニューノーマルでのプライバシーを尊重する施策

第二回:iOS上でのアプリ市場を変えるATTとは

第三回:プライバシー視点から考える、もっと前に進むためのパートナーシップ

第四回:改正個人情報保護法をチャンスに。企業が取るべきアクションとは

第五回:利用者のプライバシー保護の変化によるデータ利活用 

筆者プロフィール

CEO: ポール チャップマン

マネーツリー株式会社の創業メンバーであり、代表取締役。2000年にSaaSスタートアップ「cvMail」を設立後、Thomson Reutersに売却。その後en world JapanでIT部長を勤め、2009年よりアプリ制作に着手。2012年にマネーツリー株式会社を設立、翌年より個人資産管理サービス「Moneytree」の提供を開始。日本と母国オーストラリアにおける金融データポータビリティーのビジョンの展開にも取り組む。好きな言葉は「七転び八起き」で、趣味ははエクササイズや子供との時間。

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